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蔵前仁一「あの日、僕は旅に出た」(幻冬舎) [本と雑誌]

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休刊となっている「旅行人」の定期購読者には事前に案内状が届いていたが、ずっと我慢していたので、大試験の会場から書店に直行して買い求める。で、家に帰るまで待ち切れず、途中のカフェに入って読み始める。

「ホテルアジアの眠れない夜」(凱風社)以来の蔵前作品の読者であるからして、つまらない筈がないとわかっていても、やはりその面白さは際立っている。旅に出ることにさしたる関心もなかったグラフィック・デザイナーが旅の面白さにはまっていく過程や、会社までつくってしまったいきさつ、「旅行人」の執筆陣との出会いや彼らの遅筆ぶり(みな旅行者なので、というオチが笑える)、偶然見過ごしてしまった石井光太さんの原稿などなど…会話で描かれている一つ一つのやりとりが生き生きとしているのが、蔵前さんの文章の楽しいところ。

「遊星通信」の途中から購読をはじめた自分も、かなりの部分は同時代的に知っているわけだけど、「あのとき実は、そんなことがあったのか…」という楽屋話的にも面白い。でもやっぱり、旅のスタイルとして「それより前の世代が帯びていたスピリチュラルな旅とか思索的な旅ではなく、かといってポパイだブルータスだというヘドニズムでもないもの」をごく普通に実行していく点が、多くの読者を引き付けるのではないだろうか(椎名誠には「インドでわしも考えた」(集英社、1984)という強烈なタイトルの本があるが、この本にも共通するものがある)。

本書が刊行された経緯について、蔵前さんは「これを書くのは乗り気じゃなかったんです。僕の半生記なんか読む人いるのかって。でも、面白い読み物にして、みんなが楽しんでくれればいいと思って。」と述べられている(「週刊朝日」2013年8月16-23日号98頁)が、そこでは説明されていないストーリーが、7月29日の読売新聞夕刊に載っている。これもかなりすごい話で、1983年に蔵前さんが某雑誌に書いた小さな記事(その記事は私も読んでいない)を目にした編集者が、やはり自分も旅に出たいと願いながらかなわず、「旅行人」が休刊になってことを機会にようやく声をかけて実現したというのだ。この編集者(穂原俊二さん)の「私はまるで彼が自分の代わりに旅をしてくれているような感覚を持ってむさぼり読んだ。」という一節に、深く共感する。

また、第6章には蔵前さんが健康を回復された経緯が書かれているが、事情を知らずに心配していただけに、何やらほっとする思い。これからもあの独特の旅行記を読めることがうれしい。

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コメント 2

蔵前仁一

 やぶろぐさん、残暑お見舞い申し上げます
 ずっと読んでくださってありがとうございます。そしてこの書評もありがとうございました。すばらしい編集者との出会いがこの本を生みました。
 9月に旧ユーゴへ旅に出ます。また旅行記を書きますので、よろしくお願いします。
by 蔵前仁一 (2013-08-13 11:53) 

やぶ

蔵前さん、コメントありがとうございます。脊髄反射のような稚拙な感想を目にとめていただき、恐縮しています。
駆け出しの社会人のころ「ホテルアジアの眠れない夜」を読んで、「そうそう、そうなんだよ」と膝を打ったのがつい数年前のことのようですが、もう25年にもなるのですね。
穂原さんのいう「自分の代わりに旅をしてくれているような」思いでこれからも拝読させてください。楽しみにしています。
by やぶ (2013-08-14 01:44) 

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