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梨木香歩『渡りの足跡』(新潮文庫、2013) [本と雑誌]

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俳人にとって渡り鳥は重要な季題(「鳥帰る」「鳥雲に」「帰雁」「残る鴨」などは春、「鳥渡る」「帰燕」などは秋)だが、その出発地や経由地や行き先を実際に訪ねてゆく話。
かれら(渡り鳥)にとってそれがどれほど困難なものであるかが了解されるとともに、渡りが季節と分かち難い関係にあることに、季節というものの奥深さを感じる。また、渡りは移動であるからして、出発地にも到着地にも、等しく季節感をもたらす―それらの間に軽重や貴賎はない―ことも重要。

その上で本書は、鳥の渡りと並行するかのように、ヒトが遠くへ移り住んでいく話を挿入している。これがいずれも重みと深さをもった話で、鳥の話とヒトの話が相互に響きあっている。

叙述とモノローグが混在するような独特の文体は、人によっては気になるかもしれないが、いわばフォントに大小があるようなものと思えば楽に読めるのではないか。ただまあ、この話を池澤夏樹が書いたならば、ずいぶんと違った趣の読み物になっただろうとは思う。

第77回深夜句会(9/18) [俳句]

(選句用紙から)

山頂や月の気息の空にあり

季題「月」で秋。
いきなり「山頂や」ときて、どうなるのだろうと思っていると、月の気息つまり息遣いが空にある(漂っている)という。理屈をいえば、街並みでなく山頂にいるために、天球の上半分はすべて遮るものもなく、月の息遣いを間近に感じられるということだろう。それが理屈に堕しないのは、「山頂や」の感動があるから。

秋灯下神に捧げる踊とや

秋祭りの風景だけれど、季題は「秋灯」。なお、単に「踊」といえば盆踊り(秋)になるけど、ここでは秋祭にちなんだ踊りなのだろう。
秋祭りなので大都会ではなく近郊の町だろうか村だろうか、秋祭りの行事として舞踊が奉納されるという。地元に伝わる「○○踊り」みたいなものだろうか。よそから来てたまたま踊りを見ることになった自分は、居合わせた人に「これはどんな踊りなんですか?」とか聞きながら(「とや」)、好奇心半分で見物しているのだけど、境内に吊るされて揺れている電球が風でふらふらしている様子や、ちょっと肌寒くなってきた夜の空気が感じられる。

(句帳から)

山下りてきて鶏頭の村外れ
蜻蛉来るウッドデッキを洗ひ上げ

ベルリン・フィルハーモニー弦楽五重奏団 [音楽]

プログラムをよく読まずにチケットを買ってしまったので、カルテット(弦楽四重奏団)にビオラまたはチェロを追加した「普通の」クインテットが弦楽五重奏曲を弾いてくれるコンサートだと思い込んでいたのだけど、追加されているのはコントラバスで、曲の多くは弦楽合奏用とかオーケストラ用の曲を編曲したものだった(代役で参加しているチェロのダヴィッド・リニカーが編曲を担当しているらしい)。

で、コントラバスが加わるとどんな音がするかというと、これが弦楽オーケストラを連れてきたような、大げさにいえばフルオーケストラを聴いているような気がしてしまう音の厚みが出てくるから不思議。
名人芸的な数々のスゴ技(聴衆熱狂)にも驚かされたのだけど、しかしやはりシューベルトで聴かせた緻密なアンサンブルと、アンコールのドヴォルザークの弦の艶やかな響きが印象に残った。

モーツァルト/セレナード第13番K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
レスピーギ/リュートのための古い舞曲とアリア 第3番
ラヴェル/道化師の朝の歌
バッツィーニ/妖精の踊りOp.25
シューベルト/弦楽五重奏曲D.956
(アンコール)
ドヴォルザーク/歌劇「ルサルカ」から「月に寄せる歌」
チャイコフスキー/ノクターンOp.19-4
アストル・ピアソラ/ブエノスアイレスの春

(2014.9.22 武蔵野市民文化会館)

番町句会(9/12) [俳句]

(選句用紙から)

秋風にケバブとケバブ売る男

ここでいうケバブは、ウズベキスタンあたりで料理している本来の(野趣に富んだ)ケバブではなく、日本の都会でよく見かける、自動車に載った屋台の「ドネルケバブ」でしょう。まずケバブのにおいが流れてきて、それからケバブの姿がどんと見えてきて、最後にそのケバブの影に、ケバブを切り落として商っている男の姿が。

十六夜や窓放たれてにぎわひて

季題「十六夜(いざよい)」で秋。十五夜よりも四十分かそこら遅い月の出になるのだが、それを愛でるのに「窓放たれて」「にぎわひて」とはどういう状況だろうか。個人の邸宅だと「にぎわひて」はちょっと無理があるので、居酒屋とかワインバーのような場所で、作者はそこを通りがかっているのだろう。そんながやがやした今どきのお月見を面白く描いていると思う。ただし師匠の句評では、「窓を放つのではなく、窓を開け放つのでしょう。」と。

(句帳から)

守衛から帰れと言はれ夜学かな
鎖場の先秋風の通り道
柿の実の落ちては轢かれまた轢かれ
→落ちては轢かれ落ちては轢かれ

Scottish referendum [雑感]

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イギリスおたくのはしくれとして、どちらの言い分にも理があるように思え、かつ、ここに至る経緯や当事者の心情にも共感できる。こういうことは珍しいのだが。
結果はどうあれ、考えがいのある一件。

なお、この件を損得勘定というモノサシで論評するのは、いささか的外れであるように思われる。

(参考)councilごとの開票結果判明時間(いずれも現地時間) *BBCによる

Comhairle nan Eilean Siar - 02:00
(There were concerns this may be delayed as fog was causing problems at Stornoway airport earlier but ballot boxes from Uist and Barra were able to take off)
North Lanarkshire - 02:00
Inverclyde - 02:00
Orkney - 02:00
East Lothian - 02:00
Perth & Kinross- 02:00
Moray - 02:00
Clackmannanshire - 02:30
West Dunbartonshire - 03:00
Dumfries & Galloway - 03:00
Angus - 03:00
South Lanarkshire - 03:00
East Renfrewshire - 03:00
Dundee - 03:00
Falkirk - 03:00
Renfrewshire - 03:00
East Ayrshire - 03:00
Aberdeenshire - 03:00
Stirling - 03:00
Midlothian - 03:30
Argyll & Bute - 03:30
West Lothian - 03:30
South Ayrshire - 03:30
Shetland - 03:30
East Dunbartonshire - 03:30
Fife - 04:00
Highland - 04:00
North Ayrshire - 04:30
Scottish Borders - 05:00
Edinburgh - 05:00
Glasgow - 05:00
Aberdeen - 06:00


夏潮稽古会3日目(8/29) [俳句]

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さて最終日。朝食に続いて午前中の句会をもって日程終了。
このロッジで、水芭蕉の頃とか紅葉の頃とか真冬にも稽古会ができるといいのだけど。

(選句用紙から)

刷雲に触るるばかりの帰燕かな

季題「燕帰る」で秋。
刷雲(はけぐも)は巻雲(けんうん)の別称で、青空に刷毛で引き延ばしたような薄い雲。空の高いところにかかる雲であって、かつ、比較的いい天気であることが了解されるので、山の風景であるように思われる(これが「積乱雲」だったら、風景は全然違ったおもむきになる)。空高くに筋目のように伸びる白い雲に、さらに触れるかのようにしながら次第に数を増やし、越冬のため南へ帰っていく燕の姿が浮かぶ。大きな風景でありながら血が通った温かさを感じる一句。

もう一度松虫草を見にゆかな

ロッジの近くに秋草の野原があって、そのところどころに松虫草の薄紫色が見える。かつては分け入って探したりしたものだけど、最近は数が増え、道路から見つけることができるまでになっている。その松虫草の姿を、この旅で逗留しているあいだにもう一度見にゆきたいものだ、いや見にゆかなければ、という一句。

(句帳から)

竜胆のむらさき色の領地かな
屋根の上から霧落ちてきたるかな
吾亦紅から踏み跡が山頂へ
白樺の白の先まで爽やかに

夏潮稽古会2日目(8/28) [俳句]

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野尻湖の湖岸の奥の方には、横文字の表札ばかりが並ぶ一帯があるのですね。しかもその横文字には北欧系のお名前が多いような気が。まだ8月だが人影はまばら。曇り空の下、避暑地というよりも既に秋寒の風情。といいつつ、泳いでいる親子の姿も。

(選句用紙から)

ボート立てかけて湖畔の家は留守

季題「ボート」で夏。
諏訪湖でも琵琶湖でも、湖畔に家が建ってはいるのだろうけど、ここでは別荘のような建物を念頭におくのだろう。その別荘の庭先だか玄関先だかにボート(立てかけられる程度のボートだから、貸しボートのような大きなものではなく、むしろカヌーのようなものか)が立てかけてある。しかし人の出入りする気配はなくて、まだ夏なのにきょうは留守なのかしらんと。これが通年暮らしている家だと、「家は留守」はそれこそ空き巣の視点でしかないのだけど、夏の間だけの家と捉えれば、「ここのご家族は、きょうは町へ出ていて留守なのか、それとももう戻ってこないのかな」という問いかけになっている。

三人の男ボートにバスを釣る

野尻湖にうかべたボートに3人が等間隔で立って(小さなボートなのに、立って)何かを釣っている不思議な風景をみんなが実見しているのだけど、この句は、ジェローム・K・ジェロームの「ボートの三人男」に引っかけているのではないかと。違うかな。あのイギリス的な脱力系小説(中公文庫で読めます)と、野尻湖でブラックバスを狙う三人男の奇妙な姿が絶妙にシンクロしていて、ヴィクトリア時代のテムズ川から野尻湖にひょいと現れたような心持がして面白く読めた。

(句帳から)

黒い牛茶色い牛に秋の晴
禁漁区てふ小流れに靫草
野尻湖の小さな波の冷やかに
野尻湖の艇庫の屋根に秋の蝶→艇庫の屋根を
終焉之舊宅の碑のやや寒し

きょうの夜句会のお題は「不知火」「初月」。見たことない不知火と見えない初月の組み合わせ。

(選句用紙から)

不知火の灯りて海の現はるる

その光が見えるまでは、海は単なる闇(自分の周囲にひろがる広大な闇のどこか)であって、空と海との区分も明瞭でなかったのであろう。自分も陸地の、暗い場所にいるということ。しかし水平線に不知火があらわれると、それは空と海との境を示すとともに、海にぼんやりと映ることで、海というかたまりの存在をも示し出す。理屈っぽく書けばそうなのだけど、この句はそれを、理屈に陥らずに述べている。

高原の澄みわたる気や初月夜

(句帳から)

不知火のつぎつぎ増ゆる不思議かな
不知火の微かに上下してをるよ



夏潮稽古会1日目(8/27) [俳句]

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今年は前半組・後半組の2組に分かれて稽古会。
きょうから始まる前半組は、師匠を含めて15人。

(選句用紙から)

せり出して川ごと落ちて滝となる

季題「滝」で夏。
吟行の楽しさは、みんなが同じ景色を見ているので、句会に臨んだとき「あれをこんな風に詠めるのか!」と驚きかつ楽しめる(むろん、勉強にもなる)ところ。そうすると、「その場ではよくわかるがそれ以外の読者にはよくわからない句」になることもあるわけだが、例えば句集を編むときその句をどうするかは、これはまた別のことがらとして考えるべきであろう。

さて山田牧場の手前にある雷滝だが、ことしは雨続きだったせいもあって水量が多く、落ち方もまことに勢いがよい。渓流をどんどん流れ下ってきた水がその勢いのままに空中にどーんと飛び出して、ふと足元に何もないことに気づいて、コミックのように「川ごと」落ちて滝になる、というのは合点のいく話である。

葛の花道いつぱいにバス曲る

季題「葛の花」で秋。
それでなくても狭い山道のヘアピンカーブが、復旧工事のため狭められて片側交互通行になっている。自分がドライバーだったらかなりいやな場面だが、バスはうまくハンドルをきって、道幅をいっぱいに使って曲がっていく。「葛の花」から、そこが傾斜地であることがうかがえるので、季題とその風景とのつき方が絶妙。句会でほぼ満票に近い賛同があったのも道理である。

(句帳から)

早い水遅い水ある瀑布かな
霧の奥からゲレンデの現るる
おどし銃こだましてをる棚田かな

夕食後、希望者を募って21時締切で「夜句会」。きょうのお題は「流星」「煙草の花」だが、たばこの花って見たことがない。

(選句用紙から)

落葉松の先をかすめて星流る
土埃たてバスの来る花煙草

(句帳から)

会津へと続く街道花煙草
流れ星ロッジの屋根のうしろから

黒百合ヒュッテ [雑感]

麦草峠から南へ向かう登山道は、ずっと曇り空と霧。北八ヶ岳らしい、苔と石と茸の道が楽しい。
途中の高見石小屋で腹ごしらえをしながら様子を見るが、どんどん霧が濃くなるのでとっとと出発。

App Storeで購入したiPhoneの「DIY-GPS」というアプリケーションを試してみる。あらかじめ本体に地形図を読みこませておけば、携帯圏外でもGPSの電波を拾って現在位置を表示してくれるのがミソ。1:25000図との誤差は50mもない。また5分おきに時刻と標高を音声で読み上げてくれる(この読み上げ間隔は5~30分の間で調整でき、オフにすることもできる)ので便利。ただ、バッテリーの減りが早いのが玉にキズ。

やがて霧の中に見えてきた黒百合ヒュッテの横の空き地では、バイトさんが総出で薪を積み上げている。めいめいが背負子に積んでいる薪の量がすごい。山の冬支度。

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着いたとたんに雨が降り出し、遠くの景色は何も見えないがまずは快適快適。ストーブにあたり、ゆっくりお茶をいただく。
山の上は、本を読むには向かない(明るい照明がないし、20時消灯)けれど、電話もメールもこないので、のんびりするには最高。

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