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番町句会(7/8) [俳句]

5月は選句だけ、6月は欠席だったので久しぶりの出席。

(選句用紙から)

日覆のキッチンカーに小さき列

季題「日覆」で夏。公園の入り口などに、ワーゲンバスを改造したような車が停まって、飲み物やちょっとした食べ物なんかを売っている風景。車の横腹の、お客さんに相対するところには日覆い(シェード)が出せるようになっていて、そこに何人かが列をつくっている。
「日覆のキッチンカー」がちょっと窮屈なのが残念で、ここは単に「日覆や」でいいんではないかと。それで十分わかるのではないだろうか。
日覆という季題と、「小さき列」の組み合わせが絶妙。長い列だったらナンノコッチャになってしまう(その長い列のほうに一句の中心が行ってしまう)し、誰もいなかったら俳句にならないのだけど、数人が並んでいるこの風景が、夏の盛りの都会をよく描いている。
と同時に、この「日覆をそなえたキッチンカー」という存在自体が、20年前にはほとんどなかった(あったとしても、広く理解され鑑賞される状況ではなかった)し、20年後にはあるかどうかわからないものであって、俳句という文芸が結果的に(この「結果的に」という点は重要)時代の証言者というか、時代を描くことになることもまた重要ではないかと。

のびやかに曲りし胡瓜糠床へ

季題「胡瓜」。「のびやかに」と来るので、さあ何がのびやかになんだと思いながら待っていると、意表をついて「曲がりし」ときた。「のびやかに」「曲がりし」って一体なんだよと混乱したところで「胡瓜糠床へ」と正体が示されて、そこではじめて状況がわかる。
胡瓜の話と明かされれば、なるほど確かに「のびやかに」「曲がりし」は言いえて妙だなあ、というところ、この言葉の選びかたは、あまりあざとくやると、そのねらいが目立ちすぎて、読み手には違和感が先に立ってしまうものだが、この句にはそういうにおいはなく、その手前できちんと踏みとどまっている。


彼の人も酒でしくじり泥鰌鍋

季題「泥鰌」で夏。泥鰌鍋は、どじょうの泥臭さを消すために、ねぎだの何だのを大量にぶちこんでいただく庶民の料理と理解してよいと思うのだけど、そこで酒を飲みながら、今ここにはいない「彼の人」が酒で失敗した話をしている。
俳句でむずかしいものの筆頭は助詞「も」だと思っている。この句の「も」は「自分も酒でしくじったところ、彼の人も」の意味になろうが、軽い諧謔と悔恨の入り混じった風味を鑑賞するのは、簡単そうで簡単ではない。


(句帳から)

朝曇日ごとにビルを解体し
赤白の赤の滲める灸花
朝曇映りこんだるにはたづみ
青蔦の一直線の蔓の先

ジュリー・オオツカ『屋根裏の仏さま』(岩本正恵・小竹由美子訳、新潮社、2016) [本と雑誌]

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数ページ読む。読むのがつらくなって閉じる。しかし数分すると読まずにいられなくなり、また手にとる。
この繰り返しで、およそ150ページを読むのに2日かかる。

20世紀前半の一時期、海を渡って在外邦人にとついだ「写真花嫁」の物語が群像として描かれるのだけど、彼女たちは冒頭からさまざまな災厄にみまわれて次々に命を落としていく。ひとつひとつのエピソードは具体的かつ簡潔で、著者が丹念に取材をしたのだろうと思われる。それでも現地で子どもを産み、育て、ある者は安定した生活を得るのだけど、そこへ戦争がやってきて、ふたたび何もかも破壊される。126ページから10ページ以上にわたって続く「どのように去っていったか」の繰り返しは圧倒的な迫力。

この本を特徴づけることとして、まず、一人ひとりを美化しない、つまり悲劇のヒロインに仕立てようとしないことがある。彼女たちにせよ、自分たちにせよ、自らの身勝手さや、その時代の偏見から誰も逃れられない。それがかえって、リアリティをもたらしている。

また、相反するできごとやことがらが頻繁に語られ、人の心の難しさや不条理さを読み手に感じさせる。
たとえば、「日本に残してきた三歳の娘が、死ぬまで忘れられずにいる」のに、何十年も暮らしてきた地域のひとびとからは、1年も経たないうちに忘れられてしまう。
また、必死な思いで娘や息子を育て、教育を受けさせたのに、教育を受けたその子は、親のみすぼらしい服や、かまどの神様に手を合わせる習慣を見て恥じたり笑ったりする。
このアイロニーは切ない。

本文を読み終えたあと、訳者あとがきの最後の数行で、訳者(たち)にも「もうひとつの物語」があったことを知る。この尊いリレーがあって、自分はこの本が読めたのかと思うと頭がさがる。

本書は小説でもあり、ドキュメンタリーでもあるのだけど(いゃ、もちろん小説なのだけど)、言葉のリズムがそうさせるのか、なにか長編の詩を読んでいるような錯覚を覚える。
そして、読みおえた後も長くつづく余韻。まだ6月だが、今年のベスト1はこれで確定かもしれない。



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