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北村薫『八月の六日間』(角川文庫、2016) [本と雑誌]

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ふだんアマゾンの読者レビューを読まないのだけど、何かのはずみで本書のレビューを見たら、主として高齢の登山者と思われるレビュワーから「実際の○○山はこうではない」とか「山と関係ないことが書かれていて余計」とか書き込まれていて、笑ってしまう。山のガイドブックではないのだから、お門違いとしかいいようがない。だいいち、それを言い出したら、主人公は忙しくてたまにしか山に行けない割にはずいぶん健脚なんですね、などと無限に突っ込むはめになってしまって、全然面白くない。

こういうお門違いが生じる理由は、山を舞台にするとどうしても実在の山や山小屋を持ち出さざるを得ないからで(まったく架空の山でも小説は書けそうだが、あまり面白くなさそう)、これが例えば野球やサッカーを題材にした小説だったら、ボールが消えようが、弱小チームが甲子園に出ようが、要するにどれほど現実離れしていても「設定が安易すぎる」とか言う人は少ないと思うのだけど、「槍ヶ岳」とか「大天荘」とか固有名詞が出てくるので、ぐだぐだ言いたくなってしまうのも無理ない面もある。

また、昨今のご時勢では、ここに書いてあること(だけ)を全部そのまま真に受けて、暗くなってから山小屋に着いて平気とか、ザックの中はお菓子ばっかりとか、本当にそういう登山者が現れないとも限らないので、本文と解説(瀧井朝世さん)のあとにわざわざ、

(以下引用)
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「この作品はフィクションであり、(中略)作品中で描かれている登山時間や必要な道具類などはあくまで「主人公の場合であり」、季節や天候、コース状況、各人の体調や経験などによって大きく異なります実際の登山の際は、山小屋や登山用品店のスタッフなどプロの助言のもと、万全の装備で無計画な登山は避け、無理をせず自分のペースを守って登るようにしてください。(以下略)(p.323)
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(以上引用終わり)

と書かれている。だから本当に、山のガイドブックではないんだってば。それにしても、地図も登山ガイドも読まず、この本に依拠して山行計画を立てる人がいるのだろうか…豆腐の角に(以下自粛)

この数年でたまたま、山を舞台にした小説として『春を背負って』『山女日記』そして本書『八月の六日間』を読んだが、それぞれに違った特色をもつ作品で、登山経験があろうとなかろうと、楽しめるのではないか。

 


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